Tuesday, January 4, 2011

カリフォルニア州の財政危機と教育問題(”小さな政府”を求めた住民立法の矛盾)













経済力や人口の面で米国最大の州であり、国と位置づければ世界8位の経済力を持つカリフォルニア州が2000年代に入り、慢性的な財政赤字を抱えています。そして、長期にわたる財政収支の悪化は行政サービスの低下、特に教育予算の大幅な削減となり、従来米国の中で最も充実していた幼稚部から高校までの公立義務教育だけでなく、UCバークレーやUCLAなど全米で高い評価のある州立大学の高等教育や研究に深刻な影響を与えています。

カリフォルニア州の財源不足問題が行政サービスの中で、教育予算の大幅な削減をもたらしている背景には、1978年に州民発議によって教育予算財源を根本的に変えることになった法案13まで遡る必要があります。カリフォルニア州で、1960年代後半から1970年代後半にかけて問題となったのは、各カウンティーに属する各教育委員会の教育予算は、カウンティーの不動産保有税収入に大半を依存しており、不動産税収入の差によって各教育委員会の教育予算財源に差が生じていました。加えて、カリフォルニア州の人口増加は、各カウンティーにおける新設の学校や他の福祉サービスの増加を必要とさせ、この財源確保の必要性から市場価格に基づく不動産保有税の高い税率を住民に課しました。その結果、固定収入しか持たない高年齢のカリフォルニア住民の強い反発を招きました。こうした状況の中で、“小さな政府”を志向した2名の共和党員ジャービスとギャンが中心となり、州憲法第2条に基づき、不動産保有税に制限を加える州民発議法案13が用意されました。

この法案は本来カリフォルニアのカウンティー政府が決めるべき性格の不動産保有税を州民立法で変えるもので、1978年6月6日に投票者の約65%の賛成を持って成立しました。法案13はカウンティーによる不動産保有税の課税基準をその時の評価額の1%にすると同時に、年増加率を2%までに制限させるものでした。また、この法案には州税、あるいはカウンティーや市町村などの地方税の将来の変更に際しては、州民あるいはその地区の住民の3分の2以上の賛成が必要となるなど“小さな政府”を志向した住民の政治的権利を最大限確保した画期的なものでした。法案13はカウンティーの税収入額をそれ以前に比べ約60億ドルを減少させる(約57%の減少)と同時に、カリフォルニア州の一般教育財源をカウンティー政府から州政府に移すことで歴史的な転換点となりました。 また、この法案は1980年に当選した共和党のレーガン大統領の“小さな政府”の公約に結びつきました。

しかしながら、カリフォルニア州では1980年以降、頻繁に繰り返される米国不況はその度毎ごとに、個人所得税が全体の85%を占める州政府の所得税の減収となって現れ、州政府に依存する教育財源の不安定化が増すようになりました。こうした教育費支出の少なさを懸念したカリフォルニア教員協会、カリフォルニアPTA協会、カリフォルニア学校管理者協会などがスポンサーとなり、1988年に教育予算確保のための新たな州民発議による法案98が用意され、その結果、住民投票で約51%の賛成で成立しました。法案98は州の幼稚部から高校3年までの教育の無料化を保障するために、州政府に対して一般予算財源の約40%を公立教育予算に充当することを義務づけました。こうして法案98は全体としての公立教育財源を確保、教育予算の最低水準を保証させましたが、カリフォルニア州政府の一般税収が落ち込めば、教育予算への割当額が少なくなる状況に変わりはありませんでした。加えて、1990年から2008年までの義務教育対象人口は約140万人も増加しており、1990-91年度以降今日まで、カリフォルニア州の生徒一人当たりの教育支出は全米平均に比べ、年間1,000ドル以上少ない年度が大半となりました。長期間に渡る教育支出の少なさは、生徒の学業成績の結果にも現れ、2005年と2007年に実施された小学4年と中学2年の読解力、筆記力、数学、科学のいずれもカリフォルニア州が全米のボトム10%の州にまで低下する事態となりました。

こうした状況の中で、ロスアンゼルス市郊外のサンマリノ教育委員会は、その地区の優れた公立義務教育を維持するために、1991年に緊急対策として導入した区画税をカリフォルニア州政府の財政危機が深刻化した2003年以降頻繁に活用することになりました。サンマリノ教育委員会は既存の教育プログラムや教員確保のために、2003年3月に不動産区画税を導入、3回目として2009年5月5日に年間795ドルで6年間課税、但し、65歳以上の高齢者は除外することをいずれもその地区の投票者の3分の2以上の賛成で可決しました。このような動きは同じ地域にあるサウスパサデナ教育委員会やラキャナダ教育委員会でも起きており、6月から7月にかけて教職員維持や教育プログラム改善のための区画税を承認しました。しかしながら、カリフォルニア州全体では、区画税の新設による教育財源の確保については、2006年11月の住民投票で圧倒的な多数で否決されています。

住民立法による民主政治は住民の意思を直接に反映させる上で優れた政治形態であり、1978年に住民の多くが望んだ税負担の低減化による“小さな政府”という目的には極めて有効な政治的な手段でした。しかしながら、その一方で、現在カリフォルニア州のように、人口増に伴う教育や福祉等の行政サービスの増加に対する税の負担増については住民の考え方はあまりに多岐に渡っており、州民全体のコンセンサスが最も得にくい課題の一つになっています(昨年11月2日の住民投票では、州、カウンテイー、市町村が課すフイーの変更についても、投票者の3分の2の賛成が必要とする法案26が承認されています)。

こうした状況に対して、、昨年11月に州知事選挙で当選した民主党のブラウン知事が深刻化する財政危機について、従来のような応急措置ではなく、サービスの低下を受け入れるか、あるいは税負担の増加の二者択一しかないとしています。そして、今年3月には州民の、今年3月には州民の意向を問う新たな法案を用意するとしており、今後の展開が注目されています。


JIPANGU