Friday, July 1, 2011

私立大学化するカリフォルニア州立大学のビジネススクール














カリフォルニア州政府の財政危機は、これまで高い評価を得ていたUC BerkeleyやUCLAなどカリフォルニア州立大学のビジネススクールの経営にも大きな変化を起こさせています。6月27日付のCNN記事はUC BerkeleyのHaas Schoolの場合、2年間のMBAプログラムの授業料は2001年が19,996ドルであったものが、今年は86,396ドルで実に301%の増加となったことを伝えています。また、カリフォルニア州住民でない学生の場合には41,404ドルから100,356ドルへ142%の増加となりました。私立大学もこの期間に授業料を増加させましたが、増加率はStanfordが72.5%で、Harvardが79.6%に過ぎませんでした。10年前はカリフォルニア州住民である学生の場合、Berkeleyに行けばStanfordの授業料の31%でよかったものが、今は78%の負担を求められており、この状況はUCLAでも同様とされています。

これに対し、MBA取得後の給与はBerkeleyの場合、10年前の平均給与は85,000ドルでしたが、昨年は110,000ドルで、僅か29%の増加しかないとされています(また、求職期間も10年前は3ヶ月で決定できる学生の比率は98.5%でしたが、現在はリーマン破綻後の金融機関等の規模縮小が影響して、81%程度となっています)。Berkeley側は一流私立大学のビジネススクールの卒業生に比べ、平均給与において大きな違いがないにも拘らず、授業料はNorthwesternのKellogg Schoolに比べ20,000ドル、Pennsylvaniaの Wharton Schoolに比べ 27,000ドル安いのは、今でも魅力的であるはずと説明しています(US News & Word Report誌によれば、2011年の全米MBAプログラムのランキングで、Berkeleyが7位、UCLAが14位となっています)。

UCLAのAnderson Schoolは、現在全体予算の内、約17%が州政府からきていますが、理想的には州政府からの支援金を受けないことが望ましく、今後10年間でそうした状態に持って行きたいとしています。そして、現在得ている政府の支援金をUCLAにある財政不足のプログラムに回し、Anderson Schoolは授業料や寄付で賄い、財源面の柔軟性と安定性が確保を目指したいとしています(但し、Berkeleyの場合には、大学院のHaas School以外に、学部に350名のビジネス関係のプログラムを持っており、引き続き州政府の支援が必要となっています)。加えて、UCLAは今後3年間で、社会人のためのExecutive MBAプログラムを1つから5つまで増加させたり、現在サンフランシスコのGenentech社(ロス郊外にあるAmgen社と同じように、米国を代表するバイオベンチャー企業)向けに1社しかない顧客対応特別教育プログラムを数社に拡大させる計画を持っています。

いずれにしても、カリフォルニア州の財政危機は、高い評価を持ち続けてきたカリフォルニア州の高等教育にも大きな影響を与えており、特に、大学院のビジネススクールに関していえば、収入面で私立大学と同じような構造を持つことで、安定した財源を確保しようとしている州立大学が出てきていることは注目されます。
             {2011年7月1日: 村方 清}

Friday, April 1, 2011

”Race to the Top"ーオバマ政権の教育改革の現状と課題











オバマ大統領は、今年125日の一般教書演説で、世界市場の競争に勝ち抜くための科学と数学教育の充実を掲げました。既に、オバマ政権は2009724日に米国再建・再投資法の一環として、“Race to the Top”という名の教育改革法を発表、約4350千万ドルの予算措置を講じました。この背景にはブッシュ政権によって進められてきた“No Child Left Behind”政策が期待していたような実績を上げてこなかったという事情がありました。加えて、世界における米国の競争力がこのままでは一層後退しかねず、トップを目指す教育に目標を変えることにより、公立学校教育に具体的な成果を上げたいとの強い意向がありました。そして、予算措置の割り当てとして、以下のような4つの分野に評価の大きな基準を置くことになりました。
  1. 生徒が大学や職場で成功し、かつグローバルな経済の中で競争できるのに必要な基準や評価の採用

  2. 生徒の進歩や成功を計測し、かつ教師や校長に改善のためのあり方を示すデータシステムの構築

  3. 最も有能な教師や校長が必要とされる学校で、そうした人材が採用、向上、報奨、かつ継続できること

  4. 学力の向上が最も少ない学校の改善への転換

この中で、最も重要と見られるのは2にある生徒の向上のデータと教える側の実績に結びつける評価システムの構築で、これによりインセンテイブ(報奨)とサンクション(処罰)を客観的にしようとするものでした。そして、連邦政府は全米の州政府に上記の4つの基準に基づいて、政府の財源を優先的に割り当てることを通知、約40の州政府が申請を行ないました。結果を見ますと、第一回ではデラウエアとテネシーの2州に対して総額6億ドルが、第2回ではワシントンDC、フロリダ、ジョージア、ハワイ、メリーランド、マサチュセッツ、ニューヨーク、ノースカロライナ、オハイオ、ロードアイランドの10州に対して総額3325百万ドルの財源が割り当てられました。なお、財源不足が著しいカリフォルニア州は第2回の最終選考には残ったものの、新たな教員評価の設定面で、教員組合側の十分な協力が得られなかったこともあり、財源の割り当てを受けるには至りませんでした。

しかしながら、オバマ政権の“Race to the Top”政策には、幾つかの批判が出ていることも事実です。一つは教員組合からのもので、州政府が本来行なうべき教員評価の方法について連邦政府が共通の基準を設けることは、州政府に対する連邦政府の介入になるのではないかと言う指摘です(実際には、教員組合が強く反対する理由は連邦政府が求める教員評価には改善のない教員の解雇を含んでいることがあげられています)。もう一つは評価基準の妥当性で、ある州知事は自分達の評価基準は連邦政府の評価基準より優れたものであり、基準を変更するわけにはいかないということを理由に挙げていました。また、伝統的に共和党の考えが強いテキサス州は、州の教育内容を連邦政府の新たな方針に支配されたくないとして、最初から申請を行いませんでした。これに加えて、生徒のレベルを上げるには学校や教員の意欲や努力を評価するシステムだけでは十分ではなく、家庭で保護者が子供の教育環境をどのように整えるかも重要ではないかとの指摘も出されています(但し、この点については、オバマ大統領も教育改革に関するスピーチにおいて常に強調しています)。

いずれにしましても、カリフォルニア、ニューヨーク、テキサスを含め、現在多くの州が財源難に陥っている時に、財源支援を伴なう連邦政府の新たな教育政策はそれを受け取った州政府には大きなプラスになります。しかし、その一方、連邦政府自体が深刻な財政危機にある状態では、オバマ政権の財源支援を伴う教育政策もそれが一時的なもので終わってしまうという問題もあります(オバマ政権は2012年度予算で、”Race tot the Top“の継続のために約1350千万ドルの予算措置を講じていますが、共和党が多数派となっている連邦下院の状況もあり、それが承認される見通しは不透明です)。現在、米国のどこの州においても、教育予算は福祉予算と並んで最大の支出項目となっていますが、経済の低迷から州の税収増が期待できない以上(カリフォル二ア州は、これに加えて、1978年の住民法案13によって不動産税引き上げの制約が重なり)、州政府自身が費用と投資効果に基づき、採算性を意識した教育制度改革を志向せざるを得ない状況にあるといえます。

201141日: 村方 清)

JIPANGU

Tuesday, January 4, 2011

カリフォルニア州の財政危機と教育問題(”小さな政府”を求めた住民立法の矛盾)













経済力や人口の面で米国最大の州であり、国と位置づければ世界8位の経済力を持つカリフォルニア州が2000年代に入り、慢性的な財政赤字を抱えています。そして、長期にわたる財政収支の悪化は行政サービスの低下、特に教育予算の大幅な削減となり、従来米国の中で最も充実していた幼稚部から高校までの公立義務教育だけでなく、UCバークレーやUCLAなど全米で高い評価のある州立大学の高等教育や研究に深刻な影響を与えています。

カリフォルニア州の財源不足問題が行政サービスの中で、教育予算の大幅な削減をもたらしている背景には、1978年に州民発議によって教育予算財源を根本的に変えることになった法案13まで遡る必要があります。カリフォルニア州で、1960年代後半から1970年代後半にかけて問題となったのは、各カウンティーに属する各教育委員会の教育予算は、カウンティーの不動産保有税収入に大半を依存しており、不動産税収入の差によって各教育委員会の教育予算財源に差が生じていました。加えて、カリフォルニア州の人口増加は、各カウンティーにおける新設の学校や他の福祉サービスの増加を必要とさせ、この財源確保の必要性から市場価格に基づく不動産保有税の高い税率を住民に課しました。その結果、固定収入しか持たない高年齢のカリフォルニア住民の強い反発を招きました。こうした状況の中で、“小さな政府”を志向した2名の共和党員ジャービスとギャンが中心となり、州憲法第2条に基づき、不動産保有税に制限を加える州民発議法案13が用意されました。

この法案は本来カリフォルニアのカウンティー政府が決めるべき性格の不動産保有税を州民立法で変えるもので、1978年6月6日に投票者の約65%の賛成を持って成立しました。法案13はカウンティーによる不動産保有税の課税基準をその時の評価額の1%にすると同時に、年増加率を2%までに制限させるものでした。また、この法案には州税、あるいはカウンティーや市町村などの地方税の将来の変更に際しては、州民あるいはその地区の住民の3分の2以上の賛成が必要となるなど“小さな政府”を志向した住民の政治的権利を最大限確保した画期的なものでした。法案13はカウンティーの税収入額をそれ以前に比べ約60億ドルを減少させる(約57%の減少)と同時に、カリフォルニア州の一般教育財源をカウンティー政府から州政府に移すことで歴史的な転換点となりました。 また、この法案は1980年に当選した共和党のレーガン大統領の“小さな政府”の公約に結びつきました。

しかしながら、カリフォルニア州では1980年以降、頻繁に繰り返される米国不況はその度毎ごとに、個人所得税が全体の85%を占める州政府の所得税の減収となって現れ、州政府に依存する教育財源の不安定化が増すようになりました。こうした教育費支出の少なさを懸念したカリフォルニア教員協会、カリフォルニアPTA協会、カリフォルニア学校管理者協会などがスポンサーとなり、1988年に教育予算確保のための新たな州民発議による法案98が用意され、その結果、住民投票で約51%の賛成で成立しました。法案98は州の幼稚部から高校3年までの教育の無料化を保障するために、州政府に対して一般予算財源の約40%を公立教育予算に充当することを義務づけました。こうして法案98は全体としての公立教育財源を確保、教育予算の最低水準を保証させましたが、カリフォルニア州政府の一般税収が落ち込めば、教育予算への割当額が少なくなる状況に変わりはありませんでした。加えて、1990年から2008年までの義務教育対象人口は約140万人も増加しており、1990-91年度以降今日まで、カリフォルニア州の生徒一人当たりの教育支出は全米平均に比べ、年間1,000ドル以上少ない年度が大半となりました。長期間に渡る教育支出の少なさは、生徒の学業成績の結果にも現れ、2005年と2007年に実施された小学4年と中学2年の読解力、筆記力、数学、科学のいずれもカリフォルニア州が全米のボトム10%の州にまで低下する事態となりました。

こうした状況の中で、ロスアンゼルス市郊外のサンマリノ教育委員会は、その地区の優れた公立義務教育を維持するために、1991年に緊急対策として導入した区画税をカリフォルニア州政府の財政危機が深刻化した2003年以降頻繁に活用することになりました。サンマリノ教育委員会は既存の教育プログラムや教員確保のために、2003年3月に不動産区画税を導入、3回目として2009年5月5日に年間795ドルで6年間課税、但し、65歳以上の高齢者は除外することをいずれもその地区の投票者の3分の2以上の賛成で可決しました。このような動きは同じ地域にあるサウスパサデナ教育委員会やラキャナダ教育委員会でも起きており、6月から7月にかけて教職員維持や教育プログラム改善のための区画税を承認しました。しかしながら、カリフォルニア州全体では、区画税の新設による教育財源の確保については、2006年11月の住民投票で圧倒的な多数で否決されています。

住民立法による民主政治は住民の意思を直接に反映させる上で優れた政治形態であり、1978年に住民の多くが望んだ税負担の低減化による“小さな政府”という目的には極めて有効な政治的な手段でした。しかしながら、その一方で、現在カリフォルニア州のように、人口増に伴う教育や福祉等の行政サービスの増加に対する税の負担増については住民の考え方はあまりに多岐に渡っており、州民全体のコンセンサスが最も得にくい課題の一つになっています(昨年11月2日の住民投票では、州、カウンテイー、市町村が課すフイーの変更についても、投票者の3分の2の賛成が必要とする法案26が承認されています)。

こうした状況に対して、、昨年11月に州知事選挙で当選した民主党のブラウン知事が深刻化する財政危機について、従来のような応急措置ではなく、サービスの低下を受け入れるか、あるいは税負担の増加の二者択一しかないとしています。そして、今年3月には州民の、今年3月には州民の意向を問う新たな法案を用意するとしており、今後の展開が注目されています。


JIPANGU